女優

「私、友達に村上龍の『ラッフルズホテル』に出てくる本間萌子とそっくりだ、と言われるんです。」 　その女性、Ｍは言った。 この書き出して昨秋の思い出をかなり長く書いたところで文章を飛ばしてしまった。もう同じ文章は書けない。 まったく初対面の女性、Ｍがある場所で突然声をかけてきて１時間くらい話した。訳の分からない話だが事実。ひょっとして私が一歩彼女の中に踏み込んだら今でも関係が続いていたかも知れないが、私は踏み込まず、彼女も二度と私の目の間に現れなかった。 今、その「ラッフルズホテル」を読み終わる。 小説家、村上龍が映画監督をした作品を小説化したもの。彼はその時の主人公を演じた藤谷美和子をキーにこの小説を書いたという。 耳の裏の世界に住む狂気の女優、本間萌子。１８歳にも３０歳にも見えるという本間萌子。私があったＭは藤谷美和子とは似てはいないが、ビジュアルを除けば冒頭のＭの友人の言葉は重なってくる。 果たして彼女は女優だったのだろうか？もう二度とは会うこともないだろうが、一方でひょっこりどこかで再会するような気もする。会ったらこの話をしてやろう。

戻る